columnコラム

【人事】今、働き方改革へ-政府が進めるその理由とは-

なぜ今、働き方改革が進められているのか?

 

政府は3月28日、10回目となる働き方改革実現会議を開催しました。

「働き方改革実行計画」の策定

罰則付きの残業時間の上限規制導入や、正社員と非正規労働者との不合理な差をなくす「同一労働同一賃金」の実現を盛り込み、長年の懸案だった長時間労働や非正規の格差の改善に向けての1歩を踏み出しました。

この上限規制は初めてのものであり、時間外労働を原則月45時間、特例として労使が合意した場合年720時間(月平均60時間)を上限とすることなどがとりまとめられ、2019年度からの実施を目指すことになりました。

 

ただし、医師については時間外労働の上限規制が5年間猶予されました。その理由として、会議後、加藤・働き方改革担当大臣は「罰則付き上限規制で応招義務が果たせなくなる懸念があった」と説明しました。

応召義務おうしょうぎむ)または応招義務とは、医師などの職にある者が診療行為を求められたときに、正当な理由が無い限りこれを拒んではならないとする義務のこと。

 

【改革要旨】

政府は、人口や労働力人口が継続して減少している中で、長時間労働・残業などの悪しき慣習が日本経済の足を引っ張って生産性低下の原因になっていると考えており、改革に積極的な動きを見せるようになりました。

政府が積極的に改革を進める理由は、以下の3つが考えられます。

 

(1)日本の労働力人口が継続して減少し続けている

労働力人口は、1998年末の6,793万人から2015年末には6,598万人まで減少しています。

さらに、労働力人口を15~64歳(生産可能人口)に限定すると状況はより深刻であり、全人口に占める15~64歳年齢階層の割合は1992年には69.9%まで上昇しましたが、その後減り続け、2015年には60.8%で1955年の水準(61.2%)まで減少しました。一方で、同期間における65歳以上人口の割合は5.3%から26.3%に大きく増加しています。

全人口に占める15~64歳年齢階層の割合の減少は、生産活動に参加できる人口、つまり生産可能人口の縮小を意味します。日本では、毎年80万人以上の生産可能人口が減っている状況です。

このように少子高齢化が進行し、労働力人口が減少している中、企業は労働力確保のために、既存の男性正規職労働者を中心とする採用戦略から脱皮し、女性、高齢者、外国人などより多様な人材に目を向ける必要性が生じてきました。

しかし、既存の働き方では、急な配置転換や転勤、サービス残業や仕事が終わってからの上司や同僚との飲会等に耐えられるのは、男性正規職労働者に向いており、育児や家事を主に分担している女性、フルタイム仕事よりはパートタイム仕事を希望する高齢者、日本の企業文化に慣れておらず、長時間勤務に抵抗感がある外国人労働者を、活用するためには限界があります。

そこで、将来の労働力を確保し成長戦略を実施するためには、既存の働き方を全面的に修正し、社員一人一人の状況に合わせた、より多様な働き方の実現が要求されることになったのです。

 

(2)日本の長時間労働がなかなか改善されていない

二つ目の理由として、日本の長時間労働がなかなか改善されていない点が挙げられます。

 

2015年政府が発表した「日本再興戦略」改訂2015―未来への投資・生産性革命」では、何よりもまず重要なこととして、長時間労働の是正と働き方改革を進めていくことが、一人一人が潜在力を最大限に発揮していくことにつながっていくとの考え方が示されました。

 

この改革は、少子化対策についてもその根幹とも言える効果が期待されるとともに、地方活性化等の鍵ともなるものであり、幅広い観点から日本全体の稼ぐ力の向上につながることが期待されています。長時間労働の是正等を通じ、女性が活躍しやすい職場づくりに意欲的に取り組む企業ほど「選ばれる」社会環境を作り出していくことが今望まれてます。

各企業の労働時間の状況等の「見える化」を徹底的に進め、長時間労働改善の必要性を政府は強調しているのです。

 

日本の労働者一人当たりの総実労働時間等の推移をみていくと、

パートタイム労働者を含めた労働者一人当たりの平均総労働時間は大きく減少しているにもかかわらず、パートタイム労働者を除いた一般労働者(フルタイム労働者)だけの平均総実労働時間をみると、大きな変化はありません。つまり、日本の最近の労働時間の減少はパートタイム労働者を含めた非正規職の増加に影響を受けた可能性が高く、実際に、正規職の労働時間は大きく変化していないのです。

 

日本政府は長時間労働に対する対策として年次有給休暇の取得を奨励しているものの、有給休暇の取得率もあまり改善がみられません。2014年の労働者一人当たりの年次有給休暇の取得率は47.3%で、その10年前2004年の46.6%と比べ大きな差がなく低水準にあることが分かります。また、2014年の年次有給休暇の平均取得日数も8.8日で、2004年の8.6日と大きく変わらないものとなっています。

 

このように日本の有給休暇取得率や平均取得日数が改善されない理由としては、①日本の祝日数が昔に比べて増えたことや、②完全週休2日制が少しずつ定着することにより、労働者の休日数が平均的に増加したことが考えられますが、より根本的な理由は有給休暇が取れない又は取りづらいという職場環境にあるのが実態です。

 

〔参考資料〕

厚生労働省│都道府県労働局│労働基準監督署

 

(3)政府が奨励しているダイバーシティー(多様性)マネジメントや生産性向上が、働き方改革と直接的に繋がっている

  働き方改革を推進している三つ目の理由としては、日本政府が奨励しているダイバーシティー(多様性)マネジメントや生産性向上が働き方改革と直接的に繋がっている点が挙げられます。

ダイバーシティー(多様性)マネジメントとは、個人の性別や人種、国籍などの違いにこだわらずに優秀な人材を活用する企業経営方式のことです。

実際、(1)でも述べた通り、最近は経済のグロバール化が進むことにより、様々な環境に対応できる多様な人材の必要性が高まっています。

 

2015年には、企業及び労働者が働き方改革に積極的に参加できるよう「働き方・休み方改善ポータルサイト」を開設し、事業主等に対して自社の社員の働き方・休み方の見直しや、改善に役立つ情報(働き方・休み方改善指標等)を提供しています。働き方・休み方改善ポータルサイト

 

また、厚生労働省は、労働時間等の設定の改善により、所定外労働時間の削減や年次有給休暇の取得促進を図る中小企業事業主に対して、その実施に要した費用の一部を助成する助成金制度も導入しました。

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▷弊社コラム 【全国/助成金/厚生労働省】業務改善助成金 2017.1.18 up

 

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さらに、安倍首相は働き方改革を「最大のチャレンジ」と位置づけ、第3次安倍再改造内閣に「働き方改革担当相」を新設、「働き方改革実現会議」を開き、実行計画をまとめて行く方針を固めています。

特別会計を含め877億円(厚生労働省の概算要求額)を計上し、

最近では、退社から次の出社までに一定の休息時間を保障する「インターバル規制」の導入に取り組む中小企業に対して助成金を支給する方針を固めました。

 

これら政府の動きに対する企業の対応も早く、トヨタ自動車は、ほぼすべての総合職社員を対象に週1日、2時間だけ出社すれば、それ以外は自宅等社外で働ける在宅勤務を導入することを発表しました。

 

また多くの企業で、時間外勤務ゼロ運動や積立休暇制度、リフレッシュ休暇等の措置など長時間労働を減らすための措置が実施されてきています。

不要な残業や休日勤務などが、労働生産性を低くした原因である可能性が高く、日本政府は働き方の改革を推進することにより多様な人材を活用することで、より生産性を引き上げることを目指しています。

働き方改革は、非正規労働者の処遇改善、長時間労働の是正、ワーク・ライフ・バランスの実現、多様な人材が労働市場で活躍できることを目指しているものの、企業の立場からは大きな負担になることもあるでしょう。

生産性向上や経済成長だけを優先にすると、労働者の生活の質はより悪化する恐れがあります。この改革が、労働者の健康や生活の満足度を優先的に考慮して実施されることが望まれます。

 

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