【会計】「こども保険」構想、財源負担は企業か個人か
「こども保険」構想はなぜ生まれたか
内閣府の調査によると、
子供を増やしたくない理由の56.3%が「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」であるといわれています。子育て中の女性の中で、「もう一人(子供が)欲しいとは思うけど、経済的に厳しい」と考えている人はとても多いのではないでしょうか。
そのような中で「お金の悩みで結婚や出産をあきらめることのない社会」実現のため、議論されはじめたのが「こども保険」です。
子育て支援の財源は、本来消費税でまかなわれることになっています。しかしその消費税は、10%への引き上げもまだ行われてはいません。「教育国債」という案もありますが、将来世代へのツケ回しなる可能性が否めないとの声が挙がっています。
一方、今回の「こども保険」でも、
・そもそも歳出増には反対だ。
・幼児教育を実質無償化できるくらいの大規模制度とすべきだ。
・少子化対策は保険にはそぐわない
などさまざまな意見もあるようです。
「こども保険」構想実現のための財源確保
構想によれば、保険料率0.2%(事業主0.1%、勤労 者0.1%)の保険料を、事業者と勤労者から、厚生年金保険料に付加して徴収します。自営業者等の国民年金加入者には月160円の上乗せ負担が求められることになります。
すると、財源規模は約3400億円となり、小学校就学前の児童全員(約600万人)に、現行の児童手当に加え、こども保険給付金として、月5000円(年間で6万円)を上乗せ支給することが可能になるというのです。
また、もし保険料率を1%引き上げれば、財源は1・7兆円となり、月額2・5万円の支給が可能になります。そうすれば、現在の保育所や幼稚園の平均保育料は1万~3万円ですので、実質的な幼児保育・教育無償化となります。
社会保険制度との理念の違い
ですが、「社会保険制度」は本来、病気や高齢などのリスクに備え、雇用主と従業員が掛け金を出し合う制度です。
公費で賄われる児童手当のような「社会扶助」とは、やはり根本的理念が異なります。
企業が毎月、年金事務所に徴収されている「子ども・子育て拠出金」(児童手当拠出金が平成27年4月から改称されたもの)は、「児童手当の事業主負担分」 といわれているものです。
毎年度、支給に必要な額を計算し、これを厚生年金加入者全員の標準報酬額で割って料率を決めています。(拠出金率は平成28年度の1,000の2.0から平成29年度は1,000分の2.3に改定されました)。「子ども・子育て拠出金」は全額事業主負担であり、社会保険料というよりも”社会保障目的税”という性質が強いのです。
今回の「こども保険」では、子どものいない人や低賃金の人も保険料を負担することになります。ですから、この点についてもやはり根強い異論があります。
年金や医療を持続可能にするためには、次世代の育成は不可欠です。ひとり親家庭や貧困家庭は増えており、子どもが必要な保育や教育を受けられないというリスクを社会全体で引き受けることは、社会保険の考えと大きく矛盾はしないでしょう。
2009年以降、個人預貯金残高は毎年10兆円以上増え続けており、その多くは”高齢層”と言われています。相続税や贈与税を引き上げ、孫世代育成の財源に回すことを検討してもいいのではないでしょうか。
子どもの貧困を解消し、出生率を改善するには、高齢者に偏ってきた社会保障給付を抜本的に変える必要があります。「こども保険」が、子育て支援論議の弾みになることが期待されます。
切り離せない少子化とお金の問題
少子化の原因はさまざまですが、やはりとても大きなネックは「お金」です。
今、高等教育無償化の検討がはじめられています。しかし、幼児期については月額5千円から1万5千円の児童手当が支給されていますが、さらなる支援の拡充は見込まれないのが現状です。 「こども保険」は、児童手当に加え、0~5歳児に「こども保険」給付金を上乗せ給付するものです。
児童手当制度の財源の一割弱は事業主拠出金であるものの、その多くは公費で賄われています。一方「こども保険」は、財政の圧迫や将来世代への負担の先送りを伴わない、共助による子育て支援制度なのです。
少子化による経済停滞回避と社会保障の持続可能性
近年、企業による投資や賃上げが進まない理由として、少子化によって国内市場が縮小する懸念が企業内に存在する点が挙げられています。
今回の「こども保険」では、共助の仕組によって企業にも応分の負担は生じますが、長期的には少子化の改善により、産業界にも大きな果実がもたらされることが期待されています。
そうなれば、企業収益改善に伴う賃上げ等により、保険料負担者のみなさまにはその負担を上回るような「利益享受」の可能性もでてきます。
「こども保険」は、「お金の問題による子どもたちのリスクを社会全体で支える仕組み」です。
少子化を放置すれば、経済の停滞、社会保障の持続可能性の崩壊につながります。また、十分に教育を受けられなかった人は、高所得の得られる仕事につけず、その子どもにも十分な教育を受けさせられないという、子どもたちの「格差の連鎖」を生み出すことにつながっていきます。
もっとも、子育てや幼児教育の財源を「公的保険」として構築するためには、様々な乗り越えるべき課題もあるでしょう。ですからそう簡単には実現はしないでしょうが、今回のこの議論、建設的な国民負担へとつながる起爆剤のような価値あるものとして評価できるのではないでしょうか。
▷コラム 【平成29年4月の会計】 2017.4.19 up
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